特産品あけぼの大豆を使ってまちおこしのため「地域おこし協力隊第一号」として、身延町へ移住
大学を卒業後、東京で働いていた群馬県出身の梅澤寛人さん。「学生時代から親交のあったミュージシャンが即興で歌を作ってくれたんです。そのなかにあった、『人との出会いを繋いでいくこと、人生まだまだ長い?』という歌詞が心に響いて、『自分も何か動き出さないと』と思ったことが始まりでした」。その友人から、山梨県の地域おこし協力隊が開催したイベントにゲスト出演した際の話を聞き、山梨に興味を持った梅澤さん。まずは情報が欲しいと、東京有楽町にある『やまなし暮らし支援センター』を訪ねたと言います。「偶然にもその日が身延町の出張相談会の日で、役場の担当の方が地域おこし協力隊の募集のために来ていたんです。その方が、『今度、ここにい
るみんなで身延の毛無山に登るんだけれど、一緒にどう?』と誘ってくれて、初めて身延町を訪れることになったんです」。その後、2泊3日で身延町を訪ねた梅澤さん。あいにくの天気のなか、予定通り登山をし、町内を案内してもらったと言います。「生まれて初めての登山で疲れ切って、ほとんど記憶はありません。ただ、当時僕は営業職に就いていたので、無理にでも相手とコミュニケーションを取る日々を過ごしていたのですが、この町の人たちといるとそのストレスが一切なく、自然体でいられた。それがとても心地よかったんです」。これが決め手となって、役場の方々との出会いからわずか4か月で地域おこし協力隊として、身延町に移住してきました。
おおらかで温かい人柄の身延の人たち。
適度な距離感に、居心地の良さを感じながら、今日も、地域おこしへの挑戦は続く
「地域おこし協力隊は、都市部などから地方へ移住し、最長3年間、地域活性化の活動に取り組み、その後地域に定住するという仕組みになっています。待遇は地域によって違い、僕の場合、東京で働いていた頃より収入は減りましたが、十分暮らしていけています」と、笑顔で教えてくれた梅澤さん。身延町へ来て約1年半。『あけぼの大豆を使ってまちおこし』をテーマに、特産のあけぼの大豆の栽培から販売までの一連の流れを一通り経験し、より多くの人にあけぼの大豆を知ってもらおうとイベントを企画・開催する一方、身延町の未来を考える有志の集まり「みのべーしょん288」
に参加するなど、積極的に活動してきました。現在は、あけぼの大豆のはねだし品を使った飲み物「ソイコティー」の開発と販売に取り組んでいます。
「最近気づいたのですが、自分にとっては非日常な体験でも、ずっとここに住んでいる人にとっては日常なわけで、自分から見える景色だけを良いと言い続けてもそれは自己満足で終わってしまうんです。大切なのは、ここに住んでいる人たちがどうしたいかということなので、自分の考えだけで突っ走らず、役場や地域の人たちと一緒になってやっていきたいし、今進めているソイコティーにしても、勢いで大量生産に乗り出すのではなく、品質や飲み方、販売方法など、検討を重ね試しながら続けていきたいと考えています」と話す梅澤さん。挑戦は、これからも続きます。
あけぼの大豆を焙煎し、粉にした“ソイコティー”は、大豆本来の甘さと芳ばしさが特徴。体にも優しい飲み物として、マルシェやイベントで販売したり、希望者に直接お届けしたりしている。
12月、町が借りているほ場で脱粒作業。
最初は「何かを成し遂げたい」との思いが強く、200%の勢いでここへ来ましたけど、今は、ここで生きていくという事を大事にしたいと思っています。あけぼの大豆にしても、町を挙げて盛り上げて行こうというなかで、自分に何ができるのか、何をすることが町のためになるのか、ゆっくり考え、こういうやり方もあると言うようなことも含めて発信していけたらと思っています。
2017 年に竣工した「身延町あけぼの大豆拠点施設」は、梅澤さんの職場のひとつ。あけぼの大豆の選別を手伝ったり、ソイコティーを作ったりすることも多い。
身延町の未来を考える集い「みのべーしょん288」で出会った町内の女性と婚約中。
「身延の人は、こちらが何かアクションを起こせば、それ以上に返ってくるという感じ」。その距離感が心地よく、なんとなく、「俺、ここにいてもいいんだな」と感じるのだと梅澤さん。地域の人からは、「よくこんなところへ来たよね。何もないじゃんね」などと言われることが多いが、本人は『こんないいところは他にない』と思っていると笑う。
普通の大豆の約2倍の大きさのあけぼの大豆。身延町の特産品として町を挙げて推進している。